向社会行動を支える心と社会の相互構築

日本学術振興会科学研究費助成事業

背景と目的

研究の背景

協力行動に代表されるヒトの向社会性は、他の動物種と比較した人類の大きな特徴であり、生物学ではこれまで進化の謎とされてきた。
他方、社会科学では文化的価値や社会規範を内面化した存在として人間を理解することで、この謎を、説明に値する問いであると考えてこなかった。
しかし、この現状は、現在大きく変わりつつあり、進化生物学者、経済学者、人類学者の間で、ヒトの協力性の進化についてのモデルの構築が進んでいる。
こうした背景のもと、研究代表者山岸は1980年代初頭から社会的ジレンマ研究に従事し、人間社会における協力行動を理解するためには、社会を構成する個人の持つ意図や信念、あるいはパーソナリティなどを理解するだけでは不十分であり、そうした個人特性が協力行動を維持するための制度ないし社会的適応ニッチの形成にどのように働くかを解明する必要があるとする、社会的ニッチ構築アプローチを構築してきた。

研究の目的

本研究の目的は、人間の心理機序と社会制度とが共進化してきたとする社会的ニッチ構築アプローチの観点から、一方では心の文化差を異なる社会制度への適応行動(とそうした適応行動を生み出す心の道具)として理解すると同時に、もう一方では、社会秩序を維持するための(広い意味での)社会制度(=他者の反応の予測可能性)が人々の適応的行動から生み出されるプロセスを解明することにある。
具体的には、1)汎ゲーム的にみられる向社会行動を支える心理的機序を明らかにすると同時に、既存の測定法を用いた知見の頑強性を検討する。2)本研究で実施する様々な経済ゲームを通して、ゲーム行動と結びついている脳活動や脳構造とゲームでの行動傾向との関連を明らかにし、協力/非協力行動の神経基盤の解明を進める。3)以上の研究から得られた主要な知見を、アジア文化圏および欧米文化圏における結果と比較し、文化的背景の違いが協力行動生成と維持に果たす役割を分析する。